小型犬に多い「気管虚脱」――ガーガーという咳や呼吸困難に注意

はじめに
「ワンちゃんがガーガーと苦しそうな咳をする」「運動や興奮で呼吸がしづらそう」「首輪を引くと咳き込む」――
そんな症状が見られた時、疑われる病気のひとつが小型犬でよく見られる「気管虚脱 」です。
目次
気管虚脱って?
気管虚脱は、気管(肺までの空気の通り道)が押しつぶされたり、つぶれやすくなることで呼吸がしにくくなる病気です。
本来しっかりした筒状の気管が、軟骨や結合組織の弱さなどでつぶれてしまい、特に息を吐くときに「ガーガー」「ゼーゼー」といった特徴的な音が出ることがあります。
- ガーガー、ゼーゼーという特徴的な咳(ガチョウの鳴き声に例えられます)
- 興奮時や運動時、首輪を引っ張ったときに咳が出やすい
- 息がしづらい、呼吸が苦しそう
- 重症になるとチアノーゼ(舌が紫色)や失神、呼吸困難
- 夜間や夏の暑い時期に悪化しやすい
治療について
症状の程度や進行度によって治療方針が異なります。
- 内科治療(軽症〜中等症)
・咳止め薬、気管支拡張薬、消炎剤、鎮静薬などで症状コントロール
・肥満の子はダイエット、首輪をやめて胴輪(ハーネス)に変更
・興奮やストレスを避ける工夫 - 外科治療(重症例)
・ステント(気管内にチューブを入れる)や気管を支える手術
・合併症や再発のリスクもあるため、専門施設での対応が必要
おうちで気をつけたいこと
- 太りすぎに注意(ダイエットは大切な予防・治療の一部です)
- 首輪ではなくハーネスを使用
- 興奮や過度の運動、暑さを避ける
- 咳や呼吸の様子が急に悪化したときは早めに受診
治療で使われる主な薬と副作用
気管・気道を保護・修復する薬
カルトロフェン(カルトロフェン・ベット®)
作用
気管軟骨や気管組織の保護・修復を助け、気管虚脱の進行抑制や症状軽減に効果が期待できます。関節治療で有名ですが、呼吸器にも応用されます。
副作用
まれに注射部位の腫れやアレルギー反応。また、出血を助長するため膀胱炎などのがある場合は注意。
鎮咳薬(咳止め)
ブトルファノール(トリプタノール®など)
分類
オピオイド系鎮咳薬・鎮痛薬
作用
咳を抑え、苦しさや痛みも軽減します。急性や慢性の咳の緩和に使われます。
副作用
眠気、ふらつき、食欲低下、便秘、まれに呼吸抑制。
セレニア®(マロピタント)
分類
NK1受容体拮抗薬(本来は制吐剤)
作用
嘔吐抑制薬として開発されましたが、近年は「咳反射の抑制効果」が認められ、慢性の咳の緩和や夜間の咳止めとしても用いられます。
副作用
まれに食欲増進、下痢、注射部位の痛み
気管支拡張薬
テオフィリン、アミノフィリン
分類
キサンチン系気管支拡張薬
作用
気管や気道を広げて呼吸を楽にします。慢性的な呼吸困難の緩和に補助的に使用されます。
副作用
興奮、頻脈、ふるえ、食欲不振、嘔吐、まれに下痢。
抗炎症薬
プレドニゾロンなどのステロイド
作用
気管や気道の炎症・腫れを抑え、症状の改善を図ります。短期間または重症例で使用されることがあります。
副作用
多飲多尿、食欲増加、体重増加、長期投与で免疫力低下や肝臓への負担。
補助療法・その他
鎮静薬(ジアゼパム等)
作用
極度の興奮やパニック時に、呼吸の安定や休息をサポートします。
副作用
眠気、ふらつき、まれに食欲低下。
まとめ
気管虚脱は小型犬に多い、特徴的な咳と呼吸困難が起こる病気です。
早期発見・適切な治療と生活管理で、ワンちゃんは長く元気に過ごせます。
「咳が増えた」「呼吸が苦しそう」など気になるサインに気づいたら、早めに動物病院でご相談ください。

コメント
コメント一覧 (4件)
14歳でステロイドを飲ませて膵炎の治療をしているヨークシャーテリアですが、気管虚脱の診断を受けて「吸入器」と「咳止め」をメインに、咳の状態が酷い場合に膵炎でのステロイドと重なりますがステロイド入りの「気管支拡張剤」を飲ませています。
ネットで「カルトロフェン・ベット」が気管支の軟骨を再生させて気管虚脱を改善させるとあったので、治療を受けている獣医師にお願いしたところ、現在ステロイドを飲んでいることと胃潰瘍などの副作用があるとして断られました。 その獣医師が元々カルトロフェン・ベットについて知らなかったことから、説明受けた内容に信用できずにいるものです。
膵炎の治療中で腎臓も治療になるかもしれないとして通院している状態で、内科治療として効果があるとされている「カルトロフェン注射」や「アナボリックステロイド内服薬」の治療はできないのでしょうか
またそれら注射や内服薬が使えない場合、気管の軟骨を再生させるためにサプリメントのコラーゲンやささみなどでたんぱく質を多く与えると、膵炎や腎臓へ悪い影響を与えてしうまのでしょうか。
大変お手数ですが、教えていただきたく、宜しくお願い申し上げます。
コメントいただいていたにも関わらず、ご返信できず申し訳ございませんでした。
色々と治療をされて頑張っておられるのですね。
カルトロフェン・ベットについては、当院でも気管虚脱による咳のある子に使用することはありますが、気管軟骨が元に戻ることを証明した研究はありません。
本来は関節軟骨を保護する目的のお薬で、気管にも効果がある可能性を期待して補助的に使用される位置づけとなります。そのため、効果を感じにくい子もいます。
また、出血しやすくなる副作用があるため、膀胱炎や胃潰瘍などのリスクがある場合には注意が必要です。
体調が落ち着いて、消化管や膀胱などから出血の心配がなくなったという状況になれば、その時点で改めて検討する余地はあります。
実施する場合は、まず1回投与し、経過を慎重に確認しながら判断します。(1週間に1回を4セットが通常行われる治療かと思います。)
アナボリックスステロイドについては、当院では使用経験がなく、効果や使用感について具体的にお伝えすることが難しい状況です。申し訳ございません。
コラーゲンについては、サプリメント程度の通常量であれば大きな問題になることは少ないと考えられます。
ただし、高タンパクな食事を併用する場合は、蛋白過剰となり膵臓よりも腎臓への負担に注意が必要です。
気管虚脱は、完治を目指す場合には外科治療が選択肢となることもありますが、現在の治療で症状が軽減しているのであれば、うまくコントロールできている状態と考えられます。
もちろん追加の治療を行うのも一つの選択肢なので、主治医の先生と改めてご相談いただければと思います。
わたくしこそご返信いただいているのに関わらず、詳しくご丁寧な説明をしていただいたお礼もせずにいて、大変申し訳ありませんでした。
カルトロフェン・ベットは軟化した気管軟骨を丈夫にさせて、扁平に潰れた気管に対して丸みを戻させると理解していましたが、誤りだったのですね。
当該治療薬の本来の目的が「関節軟骨を“保護”する」とご説明いただきましたが、その『保護』とは気管軟骨の軟化を現状に留めて、これ以上気管を潰させないというイメージで受け取りましたが、誤りはないでしょうか。
また当該治療薬の副作用についてを「“出血しやすくなる”副作用がある」として「胃潰瘍のリスクがあれば注意」と説明いただきました。
掛かり付けの獣医師からは「胃潰瘍のリスクがあれば注意」ではなく「“胃潰瘍になる”副作用がある」と説明を受けていましたが、胃潰瘍のリスクがなければ胃潰瘍への心配は少なく実施可能ということで宜しいでしょうか。
外科治療についても掛かり付けの獣医師から言及があり、舌にチアノーゼを確認した状態であり外科治療する大学の医療センターを紹介するとのことでしたが、手術の治療費が大変高額であること、それに対して年齢が14歳と手術自体が大きなリスクとなること、グレード4と進んでおり気管壊死などにて予後はあまり良くないと言われております。
手術に対する説明から何とか内科治療にて状態を良くしたいと思い、色々と調べていたものですが、何か良い治療をご存じないでしょうか。
繰り返しの質問になりますが、宜しくお願いいたします。
カルトロフェンは本来、関節炎に伴う疼痛や跛行の改善を目的とした薬であり、気管軟骨の軟化そのものを改善したり、構造を元に戻したりする作用は期待しにくいと考えます。
そのため、気管虚脱に対して使用する場合は、病気そのものの進行を止めるというよりは、軟骨代謝への影響や軽度の抗炎症作用によって気道の刺激が軽減され、結果として咳などの臨床症状が少しでも和らぐ可能性を期待して使用しています。
ただし、愛犬さんのようにグレードが進行している場合は、すでに気管の構造的な変化が大きいため、薬による効果はどうしても限定的で、実際にはあまり変化を感じられない可能性もあります。
副作用についてですが、カルトロフェンは胃粘膜を直接傷つけるタイプの薬ではありませんが、血液を固まりにくくする作用があるため、もともと消化管にダメージがある場合などには出血を助長するリスクがあります。
私自身は特に単回投与で胃潰瘍を発症した症例は経験していませんが、リスクが全くないわけではないため、その点は注意が必要です。
一度試してみる選択肢自体はあると思いますが、その後の経過管理をしていく必要があり、当院で診させていただいているわけではないため、実際に使用するかどうかは主治医の先生とご相談のうえで判断されるのが望ましいと思います。
また、治療方針については「病気そのものの改善」を目指すのか、「現在の症状を少しでも楽にすること」を優先するのかによって大きく変わります。
もし病気そのものの改善を目指す場合には、やはり外科的治療(ステントなど)を検討する必要が出てくるケースもあります。
一方で、症状緩和を目的とする場合には、現在使用されているステロイドや気管支拡張薬に加えて、
ブトルファノールやマロピタントを使用して咳を減らして呼吸の負担を軽減していく方法もあります。
特に咳が強くて苦しそうな場面では、自宅で酸素室を使用することも有効な選択肢の一つです。
いずれにしても、実際の病状やこれまでの経過を最も把握されているのは主治医の先生になりますので、今後どの方針で治療を進めていくのかについては、一度しっかりご相談されることをおすすめします。