犬の僧帽弁閉鎖不全症――咳や息切れ、年齢のせいと見過ごさないで

はじめに
「最近ワンちゃんが咳をする」「階段やお散歩で息切れしやすくなった」――
そんなとき、「僧帽弁閉鎖不全症」という心臓の病気が隠れているかもしれません。この病気は「ステージ分類(進行度)」によって治療や注意点が変わります。
僧帽弁閉鎖不全症って?
僧帽弁閉鎖不全症は、心臓の左側にある「僧帽弁」がうまく閉じなくなり、血液が逆流してしまう病気です。
血液が逆流すると心臓に負担がかかり、進行すると心不全を起こすことがあります。
小型犬や中高齢の犬によくみられる代表的な心臓病です。
ステージ分類(進行度)
主に「ACVIM分類(国際獣医内科学会ガイドライン)」が使われます。
【ステージA】
リスクは高いが、まだ心臓に異常なし(例:キャバリア)
【ステージB】
B1:逆流はあるが、心臓の拡大なし。心不全の症状もなし。
B2:逆流により心臓が拡大し始めているが、心不全の症状はまだ出ていない。
【ステージC】
心臓の拡大とともに、咳や息切れ、呼吸困難など症状が現れる段階
「心不全」の症状がみられる(肺水腫)
【ステージD】
お薬でコントロールできない重い心不全。最重症
- 咳をする(特に寝起きや興奮時)
- 運動や散歩で息切れ、疲れやすい
- 呼吸が荒くなる、呼吸数が増える
- 横になるのを嫌がる(呼吸が苦しいため)
- 食欲や元気の低下
- 重症になると、お腹や足がむくむ(腹水、浮腫)、失神することも
治療について
僧帽弁閉鎖不全症は完治が難しい病気ですが、「進行を遅らせて、生活の質を保つ」ことが治療の目標です。
- 内科治療(お薬)
・ACE阻害薬(エナラプリルなど)やピモベンダン、利尿薬など、症状や進行度に応じて複数の薬を組み合わせて使用 - 生活管理
・適度な運動と安静、体重管理、塩分控えめの食事 - 外科手術
・ごく一部の重症例で、専門施設で僧帽弁修復術が行われることも
ステージごとのケア
ステージA・B1
経過観察や定期的な検査。すぐにお薬は必要ない場合も多い。
ステージB2
心臓の拡大が認められると、進行予防のためのお薬(ピモベンダンなど)を早めに開始。
ステージC
利尿薬や複数の心臓薬を使いながら、症状のコントロールを重視。
ステージD
高度な薬物治療や酸素吸入、入院治療が必要となることも。
どのステージでも、体重・呼吸数・咳の頻度などの「日常の変化」をしっかり観察することが大切です。
おうちで気をつけたいこと
- 咳や呼吸の様子、疲れやすさを日々チェック
- 体重管理と食事内容に注意(太り過ぎに注意)
- お薬は必ず獣医師の指示通りに継続
- 呼吸が苦しそう、ぐったり、失神など重い症状が出たらすぐに受診
治療で使われる主な薬と副作用
強心薬
ピモベンダン(ベトメディン®)
分類
強心薬・血管拡張薬
作用
心臓の収縮力を高め、全身の血流を改善し、心臓の負担を減らします。僧帽弁閉鎖不全症・心不全の第一選択薬です。
副作用
まれに食欲不振、嘔吐、下痢、落ち着きのなさ、心拍数増加。
利尿薬
フロセミド(ラシックス®)
分類
ループ利尿薬
作用
体の余分な水分を排出し、肺水腫やむくみを改善します。
副作用
脱水や食欲不振、頻尿、低カリウム血症、腎機能の悪化。
スピロノラクトン
分類
カリウム保持性利尿薬・アルドステロン拮抗薬
作用
カリウムを維持しつつ余分な水分を排出。RAAS系の抑制も期待でき、慢性心不全で補助的に使用。
副作用
まれに高カリウム血症、食欲不振、嘔吐。
血管拡張薬
エナラプリル(エースワーカー®など)、ベナゼプリル(フォルテコール®)
分類
ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
作用
血管を広げて心臓の負担を軽減し、進行予防や寿命延長に役立ちます。
副作用
まれに食欲不振、下痢、血圧低下、腎機能悪化。
降圧薬・血管拡張薬
アムロジピン
分類
カルシウム拮抗薬
作用
血圧を下げ、心臓への負担を和らげます。主に高血圧や重症例で補助的に使用。
副作用
低血圧、ふらつき、元気消失、まれに食欲不振。
抗不整脈薬
アテノロール、カルベジロールなど
分類
β遮断薬
作用
心拍数を下げて心臓のリズムを整え、過剰な負担や不整脈を抑えます。
副作用
徐脈(脈が遅くなる)、元気消失、食欲不振、低血圧。
まとめ
僧帽弁閉鎖不全症は小型犬・中高齢犬に多い心臓の病気です。
症状は「年のせい」と思われがちですが、早めに気づいて治療を始めることで、長く元気に暮らすことができます。
「咳が増えた」「疲れやすい」など、普段と違うサインに気づいたら、早めに動物病院でご相談ください。

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