長引く消化器トラブル

はじめに
犬や猫が「下痢が続く」「体重が減ってきた」「便が柔らかいまま良くならない」――そんな症状でお悩みの飼い主さまはいませんか?
こうした長引く消化器トラブルの代表的な病気のひとつが「慢性腸症(炎症性腸疾患、IBD)」です。しかし、腸の腫瘍(特にリンパ腫)なども同じような症状を起こすため、慎重な診断がとても大切です。
慢性腸症(IBD)って?
慢性腸症は、腸に慢性的な炎症が続く病気で、下痢や嘔吐、体重減少などが長期間続くのが特徴です。
一時的な下痢ではなく、数週間~数か月にわたって消化器症状が続く場合に疑われます。ただし、こうした症状は「腫瘍」など他の重大な病気でも見られるため、自己判断せず動物病院でしっかり診てもらうことが重要です。
- 2週間以上続く「慢性的な下痢」
- 軟便や水様便が続く
- 嘔吐(特に猫に多い)
- 体重減少
- 食欲の波(食べたり食べなかったり)
- 毛艶の低下
症状の強さや持続期間は個体差がありますが、「一時的な下痢ではなく、何度も繰り返す・長引く」のが大きな特徴です。
特に中高齢の犬や猫で、体重減少や元気消失が目立つ場合、腫瘍(リンパ腫など)との鑑別がとても大切です。
治療について
その子に合った治療法を組み合わせて進めます。
- 食事療法
消化吸収の良い療法食や、アレルギー対応食(加水分解タンパク食)を使い、腸への刺激やアレルギー反応を減らします。 - 薬による治療
腸の炎症を抑えるために、ステロイドや免疫抑制薬を使うことがあります。細菌バランスの乱れがある場合には抗生剤を使うことも。 - サプリメントやプロバイオティクス
腸内環境の改善を助けるサプリメントを補助的に使用することもあります。
治療の反応には個体差があり、効果がすぐに出ることもあれば、数週間かかることも。「完治」を目指すのではなく、症状とうまく付き合っていくこと(コントロール)が目標となります。
おうちで気をつけたいこと
- 食事は「指定されたもの以外は与えない」ことが大切です
- おやつや人間の食べ物、急なフード変更は避けましょう
- 下痢や嘔吐がぶり返した場合は早めに受診を
治療で使われる主な薬と副作用
下痢止め(止瀉薬)
ディアバスター
作用
薬用炭が腸内の有害物質や毒素、ガスを吸着し、タンニン酸アルブミンが腸粘膜を保護します。
止瀉作用(下痢止め)と腸の保護作用があり、IBDや急性・慢性下痢の補助療法として幅広く使われます。
副作用
ほとんどありませんが、まれに便秘、黒色便、嘔吐などがみられることがあります。
制吐薬・消化管運動促進薬
マロピタント(セレニア®)
作用
脳の「嘔吐中枢」に直接働きかけて、強い吐き気や嘔吐をしっかり抑える薬です。特に犬猫の各種消化器疾患、膵炎、抗がん剤治療などの嘔吐にも幅広く使われます。
副作用
食欲増進、まれに注射部位の痛みや下痢。
プロナミド(モサプリド)
作用
消化管(特に胃から腸)の動きを活発にして、胃の内容物を腸へ送りやすくする作用があります。胃もたれや食欲不振、便秘気味の子にも使われます。
副作用
まれに下痢や軟便、軽い興奮や食欲増進がみられることがあります。
プリンペラン(メトクロプラミド)
作用
消化管運動促進作用+中枢性の制吐作用を併せ持ちます。胃や腸の動きを良くして吐き気を抑え、胃もたれや逆流にも有効です。
副作用
まれに眠気、ふるえ、落ち着きのなさなどの神経症状や下痢を起こすことがあります。
抗炎症薬(ステロイド)
プレドニゾロン
作用
炎症・免疫異常を抑えて腸症状を改善
副作用
多飲多尿、食欲増加、体重増加、長期・高容量の使用で免疫力の低下や、皮膚や筋肉が薄くなる、肝臓への負担(関数値の上昇)、医原性の糖尿病やクッシング症候群(お腹の膨らみや脱毛)を引き起こすことがあります。
免疫抑制薬
シクロスポリン(アトピカ®)など
作用
ステロイドが長期使用になり副作用が懸念される場合、また、コントロールできない重症例の追加薬
副作用
免疫抑制による感染症リスク、肝機能障害、嘔吐・下痢
抗生剤
アモキシシリン(アモキクリア®など)
作用
ペニシリン系の抗生物質で、幅広い細菌に効果を発揮します。
尿路感染症、皮膚感染症、呼吸器感染症、消化管感染症など、犬猫のさまざまな細菌感染症の治療に使用されます。
副作用
まれに下痢・嘔吐・食欲不振・アレルギー反応(発疹・痒み・顔の腫れなど)がみられることがあります。
メトロニダゾール(フラジール®)
作用
腸内細菌叢のバランス調整・抗炎症作用
副作用
嘔吐、食欲不振、神経症状(高用量時)
プロバイオティクス(整腸剤)
プロバイオティクス(ビオフェルミン®、ビフィズス菌サプリなど)
作用
腸内細菌バランスの改善、便通・消化の安定
副作用
ほとんどなし
消化酵素サプリ、オメガ3脂肪酸、L-グルタミン
作用
腸粘膜の修復や炎症抑制
副作用
ほとんどなし
食事療法
消化管サポート食(高繊維食・加水分解タンパク食・低アレルゲン食など)
作用
腸に負担をかけず、食物アレルギーや消化不良を防ぐ
副作用
ほとんどなし(合わない場合は下痢や食欲不振)
まとめ
慢性腸症(IBD)は長引く下痢や嘔吐の代表的な病気ですが、腫瘍など他の重大な病気でも同じ症状が現れるため、専門的な検査と診断が不可欠です。
症状がなかなか良くならない場合や、体重が減っている場合は、早めに動物病院でご相談ください。

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