猫の甲状腺機能亢進症――高齢猫に多い“元気すぎる”のサイン
はじめに
「よく食べるのに体重が減ってきた」「落ち着きがなくなり、よく鳴くようになった」――
シニア猫でよく見られるこのような症状、甲状腺機能亢進症が隠れているかもしれません。
年齢のせいと決めつけず、気になる変化は早めに動物病院で相談しましょう。
目次
甲状腺機能亢進症って？
甲状腺機能亢進症は、首の両側にある「甲状腺」から、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されてしまう病気です。
このホルモンは体の代謝（エネルギーを使うスピード）をコントロールしています。
高齢猫にとても多い病気で、猫の内分泌疾患の代表格です。
- 食欲が増えるのに、やせていく
- 水をよく飲み、おしっこの量が多くなる
- よく鳴く、落ち着きがなくなる
- 元気がありすぎて興奮しやすい
- 嘔吐や下痢、毛艶の悪化
- 呼吸が速い、心拍が早い
- 進行すると元気消失や衰弱、心不全を引き起こすことも
「元気になった」と思っていたら、実は病気のサインだった…というケースも多いです。
治療について
甲状腺機能亢進症は、症状や年齢、持病に応じて治療法が選ばれます。
- 内服薬治療
甲状腺ホルモンの分泌を抑えるお薬（メチマゾールなど）を毎日内服。副作用や定期的な血液検査が必要です。 - 食事療法
ヨウ素制限食（甲状腺ホルモンの合成に必要なヨウ素を制限したフード）を使う方法。 - 外科手術
異常な甲状腺を摘出する手術。高齢猫や合併症がある場合はリスクも考慮。 - 放射性ヨウ素治療
日本では限られた施設でのみ可能ですが、根治が期待できる治療法です。
おうちで気をつけたいこと
- 毎日の投薬や食事管理をしっかり続ける
- 定期的な血液検査で副作用や合併症のチェック
- 食欲や体重、行動の変化に注意
- 腎臓病や心臓病などの他の病気と合併しやすいので総合的な健康管理が重要
治療で使われる主な薬と副作用
甲状腺ホルモンの産生を抑える薬
メチマゾール（チロブロック®、メルカゾール®など）
作用
甲状腺ホルモンの合成を抑えて、症状を改善します。
副作用
食欲不振、嘔吐、下痢、顔や足のかゆみ（皮膚炎）、黄疸、肝機能障害、まれに貧血や白血球減少（血液障害）。
副作用が出やすい場合は投与量の調整や中止が必要です。
※効果が出るのに１〜2週間かかります。
治療開始後や量の調整時は、1～2週間ごとに血液検査（甲状腺ホルモン・肝臓など）が必要です。
食事療法
ヨウ素制限食（療法食：ヒルズy/d®など）
作用
食事から摂取するヨウ素を極力減らすことで、甲状腺ホルモンの生産抑制。
副作用
体質に合わない場合は食欲不振や下痢。ほかのフードやおやつを併用すると効果が出にくくなります。
外科治療・専門治療
外科手術（甲状腺摘出）
効果
腫大した甲状腺を外科的に取り除き、根本的に治す方法。
注意点
麻酔リスクや高齢猫での手術負担があるため、慎重な判断が必要です。
放射性ヨウ素治療
効果
甲状腺細胞だけをピンポイントで破壊し、根治が期待できる方法。
注意点
専門施設での入院治療が必要。
合併症の管理に使う薬
高血圧治療薬（アムロジピンなど）
作用
血圧を下げて、心臓や腎臓への負担を軽減
副作用
ごくまれに食欲低下や歯肉増殖など
心臓の薬
作用
心拍数が高くなったり、心不全を起こした場合に必要に応じて追加
腎臓病との関係について
甲状腺機能亢進症の猫は一見とても元気に見えても、実は腎臓に負担がかかっている場合がよくあります。
治療により甲状腺ホルモン値が正常になると、それまで隠れていた腎臓病（慢性腎臓病：CKD）の症状が表に出てくることがあります。
そのため、治療開始後は甲状腺だけでなく腎臓の数値（BUN・クレアチニン・尿検査など）も定期的にチェックし、治療内容を調整します。
まとめ
猫の甲状腺機能亢進症は、高齢猫によくみられる内分泌疾患で、「よく食べるのにやせていく」「落ち着きがない」といった変化がサインです。
しっかり治療すれば、猫ちゃんは元気を取り戻すことができます。
「年だから仕方ない」と思わず、変化に気づいたら早めにご相談ください。
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